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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)9531号 判決

主文

原告と被告李昭博との間で、別紙債務目録記載の金銭消費貸借契約に基づく債務は、金三万七三七六円及びこれに対する昭和六一年七月一日から支払ずみまで年三割の割合による金額を超えて、存在しないことを確認する。

被告李昭博は、原告に対し、別紙物件目録記載の各不動産につき、別紙登記目録一記載の登記の抹消登記手続をせよ。被告金光彰は、原告に対し、別紙物件目録記載の各不動産につき、別紙登記目録二記載の仮登記の抹消登記手続をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

第一  申立

一  原告

1  原告と被告李との間で、主文第一項掲記の契約に基づく債務が存在しないことを確認する。

2  主文第二、第三、第五項同旨。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  主張

一  原告の請求原因

1  原告は、別紙債務目録記載の金銭消費貸借契約に基づき、被告李から、合計二〇〇万円を借受けた。

2  原告は、被告李に対し、別紙計算書(1)「支払期日」欄記載の日に「支払額」欄記載の金額を弁済した。

3  右消費貸借契約に基づく貸金の利息の利率は、いずれも利息制限法所定の制限利率を超過しているので、原告の支払った利息のうち制限超過分は、元本の弁済に充当したものとみなされる。

これによると、昭和六〇年一〇月七日における原告の借受金残元本は、六七万〇九四〇円となる。そこで、原告は、同年一〇月二八日、被告李にあてて三三万五三一七円を弁済供託し、被告李は、昭和六一年二月二〇日、右供託金の還付をうけてこれを受領した。供託額は右借受金債務残額に若干足りないが、被告李の無留保の右供託金の受領により、債務全部が消滅した。

4  かりに、被告李の右供託金の受領によっても、債務の一部弁済の効力が認められるだけであるとしても、原告は、昭和六一年六月三〇日、債務残元本三四万七二〇三円に遅延利息六万九九一六円を加えた計四一万七一一九円を被告李の銀行預金口座に振り込んで弁済し、これにより右借受金債務全部が消滅した。

5  原告は、別紙物件目録記載の各不動産(以下、本件不動産という。)を所有している。

6  本件不動産につき、昭和五九年一月一三日、被告李のため別紙登記目録一記載の根抵当権設定登記(以下、本件根抵当権設定登記という。)が、また被告金光のため同目録二記載の賃借権設定仮登記(以下、本件賃借権設定仮登記という。)が、各経由されているが、いずれも、原告の意思に基づかないで経由されたものであるから、無効である。

7  よって、原告は、(1) 被告李との間で、前記金銭消費貸借契約に基づく債務の不存在確認、(2) 被告李に対し、所有権に基づき、本件不動産につき本件根抵当権設定登記の抹消登記手続、(3) 被告金光に対し、所有権に基づき、本件不動産につき本件賃借権設定仮登記の抹消登記手続、をすることを求める。

二  被告らの答弁

1  請求原因1のうち、被告李が原告に金員の貸付けをしたことは認める。貸付金及び貸付日は、別紙計算書(2)記載のとおりである。

2  同2のうち、昭和六〇年一〇月七日までの原告主張の支払期日における原告主張の額の支払がされたことは認める。同年一〇月二八日と昭和六一年六月八日の分は、次の3、4のとおり。

3  同3のうち、昭和六〇年一〇月二八日に原告主張の供託がされ、昭和六一年二月二〇日に被告李がこれを受領したことは認める。その余の事実及び主張は争う。

4  同4のうち、昭和六一年六月三〇日に原告から被告李の銀行預金口座に原告主張の振込みがされたことは認め、その余の事実及び主張は争う。

5  同5の事実は認める。

6  同6の本件根抵当権設定登記、本件賃借権設定仮登記が経由されていることは、認める。

三  被告らの抗弁及び主張

1  被告李は、大阪府知事の登録のある金融業者であり、カイトの名称で貸金業を営んでいる。

被告李は、原告に対し、別紙計算書(2)のとおり金員を貸付けた。

被告李は、貸付契約締結のさい、貸金業の規制等に関する法律(以下、貸金業法という。)一七条、同施行規則一三条に定める契約書面を作成し、原告に交付した。

原告は、右計算書(2)のとおり、約定の利息、損害金(最後の昭和六〇年六月二八日における二〇〇万円の貸金の利息の約定利率は年四七パーセント、遅延損害金の約定割合は年七三パーセント)及び元本を、被告李の事務所に持参して任意に支払った(利息、損害金の約定利率、約定割合は利息制限法の制限を超えているが、原告は任意に約定利息、約定損害金の支払をした。)。被告李は、右弁済のつど、貸金業法一八条、同施行規則一五条に定める受取証書を原告に交付した。

以上により、原告の弁済については貸金業法四三条が適用され、利息制限法超過利息、損害金が元本に充当されることはない。

右により計算した結果、被告李の原告に対する貸金債権は(右最後の貸金債権が)昭和六〇年一〇月七日現在一九六万三一二二円(元本)残存しており、その後の原告主張の供託等に一部弁済の効力が認められるとしても、なお多額の債権が存在している。

2  原告は、被告李との間で金銭消費貸借取引を始めた直後の昭和五九年一月一二日、被告李に対して右取引上負担する借受金債務担保のため、本件不動産につき、被告李に対して極度額五〇〇万円の根抵当権を設定し、かつ被告金光に対して賃借権を設定し、翌一三日に本件根抵当権設定登記及び本件賃借権設定仮登記を経由した。

四  被告らの抗弁に対する原告の認否及び主張

1  原告が被告李に対して利息制限法の制限超過利息、損害金を任意に支払ったことは否認する。原告は、利息制限法の存在を知らず、かつ被告李の取立てが他のサラ金業者のそれに比較して異常に厳しく、原告がクレームをのべたりすれば何をされるかわからないように感じ、また本件不動産につき担保権を実行されることをおそれて、やむをえず被告李のいうままに利息、損害金を支払ったものである。

2(1)  本件根抵当権設定登記は、原告が被告李と金銭消費貸借契約を締結したさい、被告李に対して本件不動産につき債務額二〇〇万円の抵当権を設定することを約し、その登記関係書類作成等のため被告李に交付した白紙委任状、印鑑登録証明書等を、被告李において冒用して、これを経由したものである。

したがって、本件根抵当権設定登記は、原告の意思に基づかずにされたものであって、もともと無効であるが、かりに原告が根抵当権設定の意思を表示したとみられるとしても、原告はその内容を二〇〇万円の借受金債務についての普通抵当権であると誤信していたのであり、その内容が右と法的効果を異にする極度額五〇〇万円の根抵当権であることはわからなかったものであるから、原告の根抵当権設定の意思表示は、要素に錯誤があって、無効である。

(2)  また、右根抵当権は、被告李が、原告の窮迫と法律的無知に乗じ、その内容についてなんらの説明もせずに、将来生じる著しい高利を担保しようとして、原告の借受額の二・五倍もの額を極度額として、原告にこれを設定させたものであり、このような事情のもとで締結された根抵当権設定契約は、被告李にとって暴利行為となるものであり、公序良俗に反して無効である。

3  また、原告は、本件不動産につき賃借権を設定することなどまったく聞かされておらず、本件賃借権設定仮登記は、その原因たる設定契約が不存在であって無効であるが、かりに設定契約が存在したとみられるとしても、同契約は、右2(2)のとおり原告の窮迫、無知に乗じて締結されたものであって、公序良俗違反として無効である。

4  かりに右根抵当権及び賃借権が有効に設定されたとしても、その被担保債権が前記3、4のとおりすでに消滅し、原告と被告李との金銭消費貸借取引も終了し、根抵当権の担保すべき元本も零に確定したから、本件根抵当権設定登記及び本件賃借権設定仮登記は抹消すべきものとなった。

五  原告の主張に対する被告らの認否

原告の四2(1)の錯誤、同2(2)及び3の各公序良俗違反、同4の被担保債権消滅の各主張事実は争う。

第三  証拠(省略)

理由

一  被告李が原告に金員を貸付けてきたことは、当事者間に争いがない。証人田川宗平の証言により成立を認める乙第一号証の一ないし三、第三号証の一、二(ただし、被告李のみの作成文書としての成立を認める。)、成立に争いのない乙第二号証、第三号証の三ないし二六、右証言(後記措信しない部分を除く。)、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を合わせると、昭和五九年一月一〇日、原告と被告李との間で、別紙債務目録記載のとおり、元本二〇〇万円を限度とし、利息は日歩一五銭、損害金は日歩二〇銭の約により、被告李から原告に金員を貸付ける旨の金銭消費貸借契約が締結され、同契約に基づき、(イ) 被告李から原告に五〇万円が貸付けられ、(ロ) 同月一二日、さらに一五〇万円が、ただし右五〇万円の利息一五〇〇万円を差引いて、貸増しされ、貸金元本は合計二〇〇万円となったこと、その後同年七月二八日の弁済分以降の利息の利率は日歩一三銭と変更されたこと、次いで、(ハ) 同年一〇月三〇日、被告李の見解による前日の残元本一八五万七八六一円に四万二一三九円を貸増しし、被告李の見解によれば貸金額を一九〇万円としたこと、さらに、(ニ) 昭和六〇年六月二九日、被告李の見解による前日の残元本一六九万八七一〇円に三〇万一二九〇円を貸増しし、被告李の見解によれば貸金額を二〇〇万円としたこと、ところで、右(ロ)(ハ)(ニ)については、被告李及び原告ともに、いったん原告が従来の元本を全額弁済し、改めて被告李から二〇〇万円((ロ))、一九〇万円((ハ))、二〇〇万円((ニ))の貸付けをうけたような取扱いをしているが、計算事務処理上右のような取扱いをしたものにすぎず、実際には右(ロ)、(ハ)、(ニ)の貸増しがされただけであって、原告が従来の元本全額を被告李の事務所に持参したうえ、改めて新たな貸付元本の交付をうけたというようなことはなかったこと(被告李の従業員である証人田川も、とくに(ロ)の場合について、一五〇万円の貸増しがされただけである旨を供述している。)、したがって、被告李と原告との間に四個の各別に独立した貸付契約が締結され存在したわけでなく、前記最初の金銭消費貸借契約に基づく元本二〇〇万円を限度とする一個の貸金契約関係が終始継続したものであること、以上のとおり認められ、証人田川の証言中右認定と抵触する部分は措信しがたく、他に右認定を覆すに足りるほどの証拠はない。

二  右一(ロ)(ハ)(ニ)の貸増しのさいに貸換えの事務処理をしたことによる従来の元本額についてのいわば形式上の弁済も含め、昭和六〇年一〇月七日までの分につき、別紙計算書(1)の支払期日らん記載の日に支払額らん記載のとおりの額の弁済がされたことは、当事者間に争いがない。

原告が、原告の支払った利息、損害金のうち利息制限法の制限超過部分は元本の弁済に充当される旨主張するのに対し、被告らは、貸金業法四三条の適用により右制限超過部分も元本の弁済に充当されることはない旨主張する。

右乙号各証及び証人田川の証言により、被告李の原告に対する貸付けは、大阪府知事の登録をうけた被告李が前記金銭消費貸借契約に基づき自己の業としてしたものであること、原告の利息、損害金の支私は右金銭消費貸借上の利息、損害金の約定に基づいてされたものであること、前記貸付けないし貸増しにさいし、貸金業法一七条の規定による法定の契約書面が被告李から原告に交付され、また、前記一(ロ)の貸増時におけるものを除いて、弁済のつど、貸金業法一八条法の規定による法定の受取証書を交付していること(なお、前記一(ロ)の貸増時における弁済に関しては、その時点での乙第三号証の二の融資残高確認書に、同号証の三ないし二六にあるような原告の受取証書受領のサインがないので、受取証書を授受したことについて疑いが残る。)、以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

原告の弁済について貸金業法四三条が適用されるためには、さらに、債務者である原告が利息制限法所定の制限額を超える金額を利息または損害金と指定して任意に支払った、との要件(以下、任意性の要件と略称する。)が充たされなければならず、かつ、右制限超過部分の利息、損害金の約定はもともと無効であり、債務者はその約定にもかかわらず右制限超過部分の支払を義務づけられることがまったくないのであるから、右任意性の要件が充たされたというためには、債務者において自己の利息、損害金の支払が利息制限法所定の制限を超過したものであることを認識し、その事態を容認しながら任意に支払った場合でなければならないと解するのが相当である。本件においては、原告の各支払が右の任意性の要件を充たした場合にあたることを認めるに足りる証拠はない。前記乙第二号証、第三号各証、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を合わせると、原告が被告李から交付をうけた各書面に、原告が約定した利息、損害金が利息制限法の制限を超えた部分を含むことをたやすくかつ明確に理解しうる記載はなく、また被告李ないしその従業員から原告の支払うべき利息、損害金が右制限を超過したものである旨の説明をうけたこともなく、原告は、自己が約定し現実に支払った利息、損害金が右制限を超えたものであることを約定時にも支払時にも認識せず、ただ漠然と高利であると感じた程度で、約定のままに支払をつづけたことが認められる。さらに、証拠を総合しても、原告は、被告李の側から強制されて支払をしたとまでは認められないが、原告本人尋問の結果によると、原告は、当初の貸付時における被告李の従業員の態度などから、原告が約定どおりの支払をしなければ、原告所有の本件不動産に設定した後記担保権を直ちに実行されるように感じ、そのことを極度におそれて、原告が他のサラ金業者から借受けた債務については話合いにより相当額の減額をうけてこれを支払っていたのに、被告李についてのみは、減額交渉もできずに約定にしたがった支払をつづけたことが認められる。右各事情によれば、原告の被告李に対する支払は右任意性の要件を充たす場合にはあたらないものとうかがえる。

そうすると、原告のした支払について、貸金業法四三条の適用はなく、利息制限法にしたがい、原告の支払った利息、損害金のうち制限超過部分は元本の弁済に充当されるというべきである。これにしたがって、右制限超過支払部分を元本の弁済に充当した結果は、昭和六〇年一〇月七日の支払分までは、原告のした別紙計算書(1)の計算結果のとおりであることが、計算上明らかである(ただし、計算の便宜上、円未満切捨て。以下同じ)。

三  昭和六〇年一〇月二八日、原告が三三万五三一七円を供託し、被告李が昭和六一年二月二〇日にこれを受領したことは、当事者間に争いがない。右供託額が債務残額に充たないことは、原告の自認するところである。

被告李が右供託金を無留保で受領したことを認めるに足りる証拠はない(弁論の全趣旨により、被告李は、右受領当時、債務残額についての原告の主張を争い、二〇〇万円に近い元本債務が残存している旨抗争しており、一部弁済として供託金を受領したことがうかがえる。)から、右供託は無効であり、被告李の右受領時に一部弁済の効果を生じるにすぎないというべきである。したがって、昭和六〇年一〇月七日の残元本額全部に対して、翌八日から右受領時の昭和六一年二月二〇日まで利息制限法所定年三割の割合による遅延損害金が生じることになる。これにしたがって、別紙計算書(1)の計算を訂正する必要があり、その結果は、同計算書の下段の訂正部分(左端に〇印を付した部分)のとおりである。

次いで、昭和六一年六月三〇日に原告が被告李の預金口座に四一万七一一九円を振り込んだことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により、被告李は供託金と同様に一部弁済としてこれを受領したことが認められる。

右振込金は、前記同年二月二〇日の残元本に対する翌二一日から右六月三〇日までの前同割合による遅延損害金の弁済に充当され、その余は元本の弁済に充当される。その結果は、別紙計算書(1)の下段の訂正部分(左端に×印を付した部分)のとおりであり、同日になお三万七三七六円の元本債務が残存していることになる。

したがって、原告は、被告李に対し、なお、右三万七三七六円の元本とこれに対する昭和六一年七月一日以降支払ずみまで年三割の割合による遅延損害金債務を負担していることになる。

四1  原告が本件不動産を所有していることは、当事者間に争いがない。

2  本件不動産につき、請求原因6のとおり、被告李のため本件根抵当権設定登記が、被告金光のため本件賃借権設定仮登記が各経由されていることは、当事者間に争いがない。

五  前記二の認定事実と、官署作成部分の成立に争いがなく、原告の署名がその自署によってされ、その印影が原告の印によって顕出されたことにつき争いがないので、その余の部分について原告作成文書としての成立が推定される(その推定を覆すほどの事実を認めるに足りる証拠はない。)乙第四、第五号証、証人田川の証言に弁論の全趣旨を合わせると、原告は、昭和五九年一〇月一二日、被告李との間の前記金銭消費貸借契約に基づいて生じる借受金債務担保のため、本件不動産につき、被告李に対して極度額五〇〇万円の根抵当権を設定し、かつ被告金光(被告李の従業員)に対して右債務担保目的による賃借権を設定したこと、本件根抵当権設定登記及び本件賃借権設定登記は、原告の右各設定約定に基づいて経由されたものであることが認められ、原告本人尋問の結果中、右認定と抵触する部分は措信しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

六  原告は、右根抵当権設定約定につき錯誤を主張し、原告本人尋問の結果中にその主張にそうようなところもないではないが、前記乙第四号証、証人田川の証言と対照して措信しがたく、他にこれを認めうる証拠はない。右主張は失当である。

七  また、原告は、右根抵当権及び賃借権の各設定契約が公序良俗に反して無効である旨を主張するが、貸金業者ないしその従業員である被告らが原告に対する前記貸金債権について右の程度の担保を徴すること自体は、特別の事情でもない限り、容認されるものというべきである。本件において、被告らが原告から右担保を徴したことが公序良俗違反になるといえるほどの事情は、証拠を総合しても、みあたらない。公序良俗違反の主張も失当である。

八  ところで、右根抵当権及び賃借権の被担保債務である原告の被告李に対する借受金債務は、前記昭和六一年六月三〇日における残元本三万七三七六円とその翌日以降の前記遅延損害金のみが残存しており、その額は、借受総額にくらべてごくわずかにとどまっている。かつ、右乙第一号証の三、成立に争いのない甲第一号証、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を合わせれば、右残債務は、原告の前記供託及び被告李の銀行預金口座への振込みのさいの残債務額の計算誤りによってなお存在しているだけのものであり、原告と被告李との金銭消費貸借取引はもはや終了し、残元本額は右三万七三七六円に確定し、もはやこれ以上増えることはなく、そして、原告は本訴係属の前後において終始、債務全額がすでに消滅したとの自己の見解はさておき、なお若干額を和解金として支払って早急に被告らから担保の解放を得たいとの意向を示してきたことが、認められる。以上のような事情のもとにおいて、被告らが右のごくわずかな残債務の担保のために根抵当権及び賃借権を維持する必要はもはやなく、これら担保権がなくても、右残債務の回収に不安はないということができる。

したがって、本件においては、取引が終了しかつ被担保債務が全額弁済された場合と信義則上同視して、被告らにおいて、本件根抵当権設定登記及び本件賃借権設定登記を抹消すべき義務を負うものというべきである。

八  よって、原告の本訴請求は、被告李との間で別紙債権目録記載の金銭消費貸借契約に基づく債務が元本三万七三七六円とこれに対する昭和六一年七月一日から支払ずみまで年三割の割合による遅延損害金をこえて存在しないことの確認、被告李に対して本件根抵当権設定登記の、被告金光に対して本件賃借権設定仮登記の、各抹消登記手続を求める限度で理由があるから、認容することとし、その余は失当なので棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条但書、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

債務目録

貸主 ローンズカイトこと松田昭博こと李昭博

借主 河野安則

賃借年月日 昭和五九年一月一〇日

元金 最高二〇〇万円

利息 日歩一五銭(後に一三銭)

返済方法 毎月一〇万円

弁済期 定めなし

物件目録

一 所在 大阪市東淀川区豊新四丁目

地番 壱五八番七

地目 宅地

地積 四〇・九〇平方メートル

二 所在 大阪市東淀川区豊新四丁目壱五八番地

家屋番号 同町六番の弐

種類 居宅

構造 木造瓦葺平家建

床面積 弐五・〇弐平方メートル

登記目録

一 大阪地方法務局北出張所昭和五九年一月一三日受付

第一〇一一号根抵当権設定登記(極度額五〇〇万円)

二 大阪地方法務局北出張所昭和五九年一月一三日受付

第一〇一二号賃借権設定仮登記

別紙計算書(1)、(2)(省略)

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